鈴木海太『BABA GANGA KI NARE WALA』『HOTEL NANDI』

突然8年ぶりで鈴木海太さんからTELがあったのが数日前のこと。

8年前、プロジェットがまだ渋谷にあった頃、インドで作った画集を預かって売ったことがあった。『SUPER』といタイトルの南インドの人々を描いたその本はすぐに完売した人気の本でした。鈴木さんは今回も前回と同じ印刷所が集まっている南インドのシバカシという街の印刷所で本を作ったそうだ。

そのTELですぐに扱うことが決まり、そうして納品に来てくれました。この日も川崎まで、はるばる自転車で来たというのもスケッチ片手に世界を旅する鈴木さんらしいところでした。

今回納品してくれた2冊の本は鈴木さんが新しく立ち上げたレーベルNANNDI BOOKの第一弾です。

『世界中どこにいようとも、旅先で描いた絵は、その土地の人たちの手で、その土地の印刷事情や印刷技術に従って本にする。その喜びは、自分の絵が印刷によって予期せぬものに変わること。原画とは別の、その国その土地ならではの空気感や人の気配までもが吹き込まれる喜びなのだ。』と最近鈴木さんが雑誌で書いている通り、未裁断のページや印刷の版ズレ等があり、レーベルならではの愉しい味わいがあります。

たとえば、今年の春、インドを旅していきながらインド人の生活風景を描いた画集『HOTEL NANDI』を開いて見ると、人物の顔が鼻のところで切れている。

最初、機械バインディングで作るつもりがアナログバインディングになったことから起きた結果らしく、その交渉の話もまた愉しく面白いものでした。鈴木さんは、旅の絵と写真と文からなる紀行文も雑誌で最近時々見かけるのですが、これがまた面白いので、そのうち是非どこかの出版社が本にしてほしいものです。

今回の旅では、ヒンズー教の祭典クンプメーラに行ったそうで、そこで書きためたスケッチから作った画集『BABA GANGA KI NARE WALA/ガンジス河の聖者たち』も納品してくれました。

ヒンズー教の祭典Kumbh Melaクンブメーラは、聖なるガンジス川で沐浴することにより、あらゆる罪が流され、本人家族が幸せになれると言われ、約3ヶ月間、数千万人が押し寄せる世界最大最狂の宗教的祝祭だそうで、世界中から集まった様々な人々や修行者サドゥーを描いた鈴木さんの独特の絵からはその場の雰囲気が伝わってくるようです。

それにはこの現地で作った本のテイストも多いに関係しています。NANNDI BOOKレーベルの今後もかなり期待出来そうです。 (文:悦)



book data:
title: BABA GANGA KI NARE WALA/ガンジス河の聖者たち
publisher: 鈴木海太
author: 鈴木海太
price: 1200(税込)



title: HOTEL NANDI
publisher: 鈴木海太
author: 鈴木海太
price: 1200(税込)

吉永マサユキ・森山大道フォトワークショップresist写真集『resist photo workshop vol.4』


吉永マサユキ(塾長)さんと森山大道(特別講師)さんが講師を務めるというのが何とも魅力なルーニィ・247フォトグラフィーが主催する写真の学校resist。

その第4期修了生による写真集が刊行された。今回の内容は14名の受講生(阿南浩志 / 伊藤藍 / 岩田栄二 / 榎本一穗 / 岡崎崇 / 片山文那 / 片山恵悟 / 佐久間泰行 / 中園照水 / 桝田展代
/ 川真田健

/ 菊地諒

/ 坂巻ちず子

/ 田島麻衣子

/ 半澤みさき

)の作品+吉永氏、森山氏の作品が各4ページづつ収録。本の構成は毎年同じ感じだが、先日納品などの営業に4期生の菊地諒さんが来店したときに、受講生全員が作品集に載る訳ではないという話を聞いた。

毎回ゲスト講師の話を聞くことと共に、自分たちが撮った作品を吉永マサユキさんと森山大道さんのふたりの講師に作品を見てもらいながら、この講師ふたりの厳しい目を通して成長して残った14人しか載らないというのだ。理にかなっているなとおもった。そして何より面白いのは生徒の作品集を作るだけでなく生徒がその販売営業まで体験するというところ。そういう訳で、菊地さんも熱心にお店に足を運んでくれているわけです。

本というのはただ作ったら本というのでなく、店頭でお客さんの手に取ってもらい、売れて初めて本当の意味での本になるということが、学べるというのは中々いいことだと思う。そうしたことを知った上で写真集を出す写真家になるのとそうでないのではけっこうちがうものですからね。今後ここから写真家として大きく羽ばたく人が出るかどうか楽しみなところです。 (文:悦)







book data:
title: 吉永マサユキ・森山大道フォトワークショップresist写真集『resist photo workshop vol.4』
publisher: resist写真集制作室
author: 吉永マサユキ森山大道 ほか  
price: 2100(税込)

saji 03


今日8月27日で、PROGETTOは11周年です。もう終りだろうと思いつつぎりぎりでなんとか続いています(苦笑)。

さて、zine特集の書籍の取材のことがあって、お店のお勧めのひとつで提案しようと思っていたのが『saji』です。料理を扱う雑誌としては思いっきり独自性に溢れています。その『saji』を自ら編集構成している写真家のMIHOさんに連絡したら、MIHOさんが納品がてらお店に来てくれました。気軽に世界中を飛び回っているMIHOさんらしく、『saji』はパリやロンドン、ニューヨークなどのお店で取り扱われており、取扱店のリストは日本より欧米の方が多いという異例なzineといえます。

sajiを通して繋がったクリエイターたちと世界中で、イベントを自ら企画して開催するなど行動的なMIHOさんは、お店に来たこの日も、いろんな話をしながらお店中の本を見て回り、さらには『saji 2008 summer issue』の見本を自分で作ったりとにぎやかこの上なく、私にとっては愉しい時間が過ごせました。


「今食べてるものが10年後のあなたの体をつくる」をメインコンセプトに、食事に無関心な人たちに、ヴィジュアルを入り口に、自分で作る料理は簡単で楽しく美味しいよ! と伝えることを表現して、フリーペーパーから出発して進化してきた『saji』。今回納品された『saji 03』は最新号。

これまでの『saji 2008 summer issue』や


『saji 2009 spring issue』では本、ポスター、ステッカー、しおりなど複合形態の仕様になっていたのに対し、



03では本の形式にこだわったそうです。03のテーマは「ヒーロー」。形式は本に固定されているものの、内容は相変わらず多彩この上ない。ページを捲って最初に目に飛び込んでくるのは金泉佐知子さんの個性的なイラストレーション。

スープ、サラダ、メインの鴨肉、そしてデザートという料理のフルコースを描いた絵が8ページにまたがる続き絵となっています。金泉佐知子さんのイラストはMIHOさんも大好きだそうです。イラストの話をMIHOさんとしていて面白かったのは、MIHOさんがパリで『saji 03』を取扱のためPARISで色々やっていたら、sajiの金泉さんの絵が反響を呼んで、MIHOさんの知らぬ間に金泉さんがPARISのエージェンシーに所属していたそうです。


03のページを捲って行くと続いてフランス語、英語、日本語の3カ国語のテキストで食べるについてのいろんな価値観について語られます。テキストはフランス人と日本人のハーフのE.Iさん。



続いてはMIHOさんの写真にコウケンテツさんの料理による「お家に仕事から帰ってきたヒーロー」というシリーズで、バットマンのロビン、超人ハルクスパイダーマンなどの設定。


例えば、スパイダーマンは貧乏なので、皿もなくフライパンでピザを食べているとか、超人ハルクは家に帰ってきて普通に戻ってきつつあって、手だけがまだ緑という状態。横には、一日分の全部の栄養素が入っている緑のジュースがあるという具合。




その次は、パティシエ柿沢安耶さんがレシピと料理を作ってMIHOさんが撮影した「シロクマの住むところ」「リスの住むところ」。イラスレーターのNICK Zの絵によるトマトとジャガイモ。
さらに、服部あさ美さんのイラストで魔法使いが杖を降った時の残像をイラスト化。レシピはsaji。



最後は、堀米素子のレシピに、NYNOのイラストとMIHOの写真のコラボで「爆発するガール」。

ガールズヒーローが爆弾を投げて爆発して世界が平和になるというのがバックテーマだそう。とてもPOPなヴィジュアルで、多彩なイメージのsajiらしい終わり方です。



それにしても料理をこんなふうに多様にして面白いヴィジュアルで構成してくれるsajiは今後もどんなものが飛び出るのか楽しみです。
ちなみに、いつも日本にほとんどいないMIHOさんが、帰り際に「今年は日本にじっくり居たいと思っている」といっていたので、海外では多くの雑誌に取りあげられたり反響の大きいsajiがこれから日本でもどんどん有名になるような気がしてきました。結構、僕の予感は当たるのです(笑)。 (文:悦)





book data:
title: saji 03
publisher: saji
author: organization by MIHO
price: 1800(税込)



title: saji 2009 spring issue
publisher: saji
author: organization by MIHO
price: 1575(税込)



title: saji 2008 summer issue
publisher: saji
author: organization by MIHO
price: 900(税込)

jasmine zine #8 "country"


zineに関する取材を先日受けた。お店のお勧めを5冊ということで、なるべくバラエティ感のある選び方をしようと思っていたのですが、そのひとつに選んだのがプロジェットでは取り扱い始めたばかりのjasmine zine。

プロジェットのホームページを見たとかで、取り扱いませんかと?メールが来たのがきっかけです。

jasmine zineは19才の人気モデルMARIKOさんがディレクターとして自主出版している、手頃な値段で気軽に読める、感度の高い10代向けファッション&カルチャー誌です。

来たメールにあったコンセプトには『海外にはBaby Baby Baby(メキシコ)、jarouse(フランス)、i-D(イギリス)、NYLON(アメリカ)といった感度の高い10代向けの雑誌があり、日本にもそういったファッション&カルチャー誌があればなぁ、と思い作り始めた雑誌がjasmine zineです。コンセプトはクオリティーの高い内容でも10代が買えるように手頃な値段で気軽に読める雑誌です。』とあって、その思いがいい感じにぶつけられていて、zineの持つ自由な感覚がまさに出ていると思うのです。 (文:悦)


book data:
title: jasmine zine #8 "country"
publisher: MARIKO
author: MARIKO
price: 420(税込)

Ahaus No.9 (アーハウス 9号) 特集 風景は成長したか


本や雑誌を見ていて、本筋と関係ないところで気になってそれを辿って行くと意外な発見があるというのがごくたまにあります。そんな時はなんだかとても嬉しい気分になるものです。ついこのあいだ、青森発の建築雑誌Ahausの最新号が約一年ぶりに届きました。年に一二回の刊行ながら、青森にこだわった内容のユニークさとそのクオリティの高さで創刊以来注目し続け、お店が取材を受けた際には必ずといっていい程お勧め商品として提案してきた雑誌なので、まさに待望の刊行なのです。
今回の特集は「風景は成長したか」。メインは宮本常一太宰治が訪れ文章に残した青森の風景を辿るというもの。とにかく写真の量の豊富さに驚きます。

とかく昭和を扱うこうしたテーマの場合、雑誌でも書籍でも大概は集められるビジュアル資料に限界があり、テキスト主体になり、文章を読んで想像してくださいと言うことになるのですが、ここでは風景を語るテキスト一語一語にそれぞれ写真が呼応していると言ってもいい程、ビジュアルが豊富なので、昭和の青森の風景にすんなりと入って行けます。そういう感じで読み進んでいるうちに、その掲載写真の多くに妙に惹かれるものがあることに気付いたのです。

それは何だろうと思って注意して見ていくと、クレジットの「特記無き昭和の写真すべて」が同じ人で、一番写真の量が多いこの写真が妙に引っかかったのです。別段、大きな特徴がある写真ではないのですが、何か引っかかる。いわゆるプロの写真家のけれん味とも、アマチュア写真家に多いコンテスト狙いとも、資料写真の頑ななぎこちなさとも違う何とも言いがたい味わいなのです。風景を捉える構図の収まっていつつも外れたバランス感覚の、そのずれた安定感が妙に目にとまる。なんだか特集そのものとは別のところで気になって仕方なくなってしまった。写真のクレジットは金澤哲郎と言う聞いたことの無い人だった。こうなると、どうしても知りたくなってくる。それで、いつも取扱のことでお世話になっているahausのデザイナーの小枝さんに聞いてみたらなんと編集の人のお父さんだとのこと。編集の金澤さんにも電話でお話しを伺ったところ、お父様はいわゆる写真家としてプロの活動をされてた人ではないが、広報の仕事を長くされてた関係で、写真がしばしば仕事で使われることが多かったそうだ。公私を兼ねて昭和30〜40年代に青森県内を歩き回って撮影した写真が大量に残されており、今回のこの雑誌の企画のテーマにちょうどいいので、その膨大な写真から企画にあったものを選んだんだそうだ。

金澤さんとせっかく話が出来たので、前から気になっていたことも聞いてみました。青森発の雑誌であって、いわゆる取次の全国流通を通す一般の大手雑誌ではない存在でありながら、今回の特集での内藤廣さんもそうだし、毎回毎回企画に合った大物の人が執筆しているのが、不思議だったのです。地方にいてこの内容や編集のクオリティは謎ですよね。よほど、豊富な人脈でもあるのだろうかと...。ところが聞いてみると、会ったこともない人がほとんどだというのです。毎回企画のたびに、ダメもとで手紙で依頼するのだそうです。編集の金澤さん曰く「大物の人は、建築家としての社会的責任を認識しているせいか、地方の専門外の人に対しても、建築について興味や関心をもってもらったり、理解を深めてもらうことの意味を強く感じておられるのか、こころよく力を貸してくれる人がほとんどなんですよ。冷たくされたことが不思議とないのですよ」とのことでした。

日本では地方で制作された雑誌はせいぜいタウン誌どまりで、全国レベルのクオリティにならないのが残念でならないといつも思っていて、それはやはり東京でないと制作上難しいのかなと思っていたのですが、ahausを見てるとなんだか元気づけられます。けっして地方にいても良質の出版物を作るのは可能なものだと思うのです。海外だと、例えばイタリアとかだと、出版社は世界レベルのものが地方都市に結構あります。ブルーノ・ムナーリの本で有名なコライーニはマントヴァだし、アントニオ・タブッキをはじめとする現代文学の良質な作品を刊行しているセッレーリオはパレルモだったりする。日本でも無理じゃないなとahausの話を聞いてて思いました。要は作り手次第ということなんだなと。
それとAhausは特集の他に連載もあるのですが、毎回の特集と連載の内容がリンクしていて、連載自体も特集の一部にもとれるというのも、とても丁寧な作り込みをしているなと感心するところです。
今日は気になった写真のことを辿って行ったら、編集の丁寧さに行き着いて、前からの疑問が解けて、勇気づけられてと、愉しい展開でした。 (文:悦)




book data:
title: Ahaus No.9 (アーハウス 9号) 特集 風景は成長したか 
publisher: アーハウス編集部
author: アーハウス編集部
price: 980(税込)

ストラップマスコット「めるめるちゃん」


お店にはときどきお客さんで来た作家さんが買い物のついでに、自分の作品を取り扱ってもらえますか?と尋ねられることが多い。10日程前に来店した若い女性の人からも同じ質問をされた。そしていつも通り作品を見せて頂いて、扱うことになりました。

めンめモコと言う作家名で活動している彼女の持ってきたのは手づくりキャラクター雑貨でした。そのストラップマスコットはポリエステル素材を基本に、布素材にはプードルファーを用いたとても触り心地のいい手づくりものです。色も
シロクロ

ベージュ

ピンク

と3色あります。
これは人気でそうだなと思っていたら、入荷して1週間程で初回分が完売してしまいました。お客さんが手にしながら大喜びで反応する姿を見るのは愉しいものです。
そんな訳で、今日めンめモコさんが直接お店に納品に来てくれました。写真の「めるめるちゃん」を手にしているのは本人です。

作家が自ら手タレと言う訳ですね。人使いの荒い店です!(笑)
(文:悦)


book data:
title: ストラップマスコット「めるめるちゃん」 ピンク
publisher: Pyonkoromochi
author: めンめモコ
price: 680(税込)


title: ストラップマスコット「めるめるちゃん」 ベージュ
publisher: Pyonkoromochi
author: めンめモコ
price: 680(税込)


title: ストラップマスコット「めるめるちゃん」 シロクロ
publisher: Pyonkoromochi
author: めンめモコ
price: 680(税込)

新倉孝雄写真集『DIZZY NOON』 サイン本

新倉孝雄さんの新しい写真集『DIZZY NOON』を手に取ってまず思ったのは『近くて遠い』と言う言い回しだった。

1965年5月9日、米軍基地の公開日という1日だけのアメリカ体験を楽しむ人々を捉えたスナップショットからなるこの写真集では人々が皆特別なところへのお出かけという風情が、1960年代の遠さと興味深さを感じる。

1965年というと、戦後から20年経ち、安保も終り、米軍が馴染んで来て、そしてベトナム戦争が始まり、米軍の評判が落ちてきたことへの危機意識もあって基地開放日で交流を図ったという感じだろうか?人々の身繕いが特別な場へのお出かけと言った感じが微笑ましくもあり隔世の感であり、すぐ近くの時代なのにとおくに感じた。

そして、厚木という土地も東京からすぐ近くなのに、鉄条網が絡む高いフェンスの向こう側の飛行場がえらく遠くに感じさせる。(文:悦)



book data:
title: 新倉孝雄写真集『DIZZY NOON』 サイン本
publisher: 蒼穹
author: 新倉孝雄
price: 3360(税込)