ブラジルから遠く離れて 1935-2000 クロード・レヴィ=ストロースのかたわらで / サウダージ・ブックス

5月の中旬のことでした。三浦半島秋谷の丘の中腹にひっそりと建つ古民家にある、本のサロン「サウダージ・ブックス」の代表の淺野卓夫さんという人から突然メールが来て、本を刊行したので取り扱いませんかというものでした。興味ありますと返事したら、ご本人の淺野さんが納品にいらっしゃいました。従来の書店や図書館、ブックカフェとはひと味ちがう「本のサロン」というのと、古民家というのにも興味がわき、淺野さんと少しお話したところ、浅野さん御自身も文化人類学を学ばれ、実際に長い期間サンパウロでフィールドワークをされたそうで、本への興味と、旅と精神、人とのつながりを考えているうちに具体的な構想が生まれてきたものが「サウダージ・ブックス」というサロンであり、出版物であるようで、御本人の自然な個性もあって、その出版物にも興味がより湧いてきました。 

実際に持ってきてくれた本は、事前に人文書と聞いていた予想とは裏腹な、鮮やかで愛嬌あるマゼンタ色のカバーに、糸かがり・フランス装で手仕事の感触をもつ造本で、思わず手に取りたくなるものでした。それは、レヴィ=ストロースの歴史的名著『悲しき熱帯』・ブラジル・写真をテーマにした人類学者・批評家の今福龍太さんの最新著作でした。2007年に開催された茅場町のギャラリーマキの展示企画「群島のアート考古学」から生まれたもので、「クロード・レヴィ=ストロースのかたわらで」という副題が示すように、ひとりの文化人類学レヴィ=ストロースが残した書物を通して、もうひとりの文化人類学者今福龍太がそこに写し出された写真を65年後に同じように撮影をするという追体験をしていくことで、『悲しき熱帯』と30年代の南米サンパウロで撮影された写真作品の持つ目に見えない情景までもが映し出されてきます。

レヴィ=ストロースの思想にとって〈ブラジル〉というはじまりの場がどのような意味をもっていたかを再考することで、もうひとりの文化人類学者今福龍太のブラジルとレヴィ=ストロースまでもが映し出されてくるという刺激的な精神の旅の本にもなっていました。 読み終わった時には、本の内容への思いだけでなく、お会いしたこともあり、淺野さんの目指すサウダージブックスの展開とそこから生み出されていくだろう出版物への興味と期待も増々強くなっていました。 (文:悦)

book data:
title: ブラジルから遠く離れて 1935-2000 クロード・レヴィ=ストロースのかたわらで

publisher: サウダージ・ブックス
author: 今福龍太+サウダージ・ブックス
price: 2100(税込)