慶應義塾大学アート・センター・ブックレット 18「文化観光 『観光』のリマスタリング」


慶應義塾大学アート・センターが発行するブックレットは編集委員によって、毎回テーマを決め、未発表のオリジナルの論文が掲載されているもので、アートを狭く論ずるのではなく、経済やメディアなど幅広い側面からアプローチしたテキストが集められており、私なぞは毎回楽しましてもらっている。今回の18号のテーマは「文化観光 『観光』のリマスタリング」。

昔勤めていた書店では、長らく旅行書の担当をしてたこともあり、このテーマは興味あるなと手にしたら、やはりこのブックレットらしく、文化行政、メディア、歴史、業者と言った多角的なテキストが集められていて実に面白い。

中でも個人的に嬉しかったのは「英国人のグランドツアー その起源と歴史的発展」。グランドツアーという言葉は、今から20年以上前にジェーム・アイボリーの映画「眺めのいい部屋」を見た時に、初めて意識した。この映画を見る事になったのも、舞台がフィレンツェだったというのが大きい。昔からイタリア好きで、お店の名前にまでイタリア語にした程なので、映画を見るにもイタリアびいきなのは言うまでもないこと。映画では、昔の裕福なイギリス人の若者たちの優雅なイタリア観光が描かれていたが、話の内容より、彼らのイタリア観光の仕方に興味が一番だった記憶がある。

そうしたイギリス人のありさまをグランドツアーという言葉で言い表すのをこのとき知った。そのとき、興味はわいたものの、そのうち調べたいなと思いつつ、グランドツアーそのものの歴史までは調べなかった。その後も、ゴシック建築の本の紹介記事を書かなければならなかった時や、伝説の多い画家サルバトール・ローザを主人公にした冒険映画をイタリア映画祭で見た時などにグランドツアーのことを思い出し、調べようと思いつつ忙しさにかまけて忘れてしまっていたので、今回このブックレットで、グランドツアーの歴史がしっかり書かれていたのは、長年の関心がかなり満たされ嬉しく思いました(苦笑)。 (文:悦)





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title: 慶應義塾大学アート・センター・ブックレット 18「文化観光 『観光』のリマスタリング」
publisher: 慶應義塾大学アート・センター
author:慶應義塾大学アート・センター
price: 700(税込)