石内都写真集『tokyo bay blues 1982-1984』 サイン本

石内都さんの最新の写真集が入荷した。

この『tokyo bay blues 1982-1984』は戦後の写真史に大きな影響と足跡を残した雑誌『カメラ毎日』が休刊する直前に連載された「Tokyo Bay City」を再構成したものだそうだ。私は残念ながら当時連載を見ていないのですが、その連載では、横須賀を出発点に回ごとに東京湾を廻っていく内容で、写真とテキストが量的にも拮抗して連動した内容のものだったそうです。対してこの写真集では、テキストの無い写真のみで並びもバラバラで、写真集独自の世界を作っているので、全くの新しいものになっています。

聞いた話によれば、このときの連載が石内さんの最初のカラーという事で、フィルムにして200数十本という膨大な量が撮影され、今回の写真集の編集作業もその連載用に撮影されたポジ8000枚という膨大な量からセレクトしていったところ、採用された写真の大半は未発表であり、連載とコマ違いも多く、結果テキストと連動できなくなり、写真集独自のかたちが生まれていったそうだ。

しかし、ここにある海の風景の不思議な美しさは30年近く前の風景の写真とは思えない新鮮さがあり、この本の例え様の無い魅力を作り出している。それにしてもよくもこうした名作が本になっていなかったものだと思うが、そこは出版した蒼穹舎ならではでしょう。蒼穹舎の太田さんは、石内さんの作品を数多く手掛けているだけでなく、タレントものではない、写真家の写真集をおそらく世界で最も写真集を編集している名編集者です。出版された写真集は100冊を越えています!

その大田さんの幅広い仕事のなかで、本になっていない埋もれた名作をまとめるというものがあります。太田さんの最初に手掛けた深瀬昌久さんの「鴉」もそうですし、近年では森山大道のギャラリーでの展示のみの未発表写真をまとめた「宅野」や『カメラ毎日』の連載からの「hysteric Sixteen 植田正治 小さい伝記」、個展で一部発表されただけの長野重一写真集『香港追憶 HONGKONG REMINISCENCE 1958』などいずれも強烈な印象を残しています。どの本の場合も、発表当時のそのままではなく、写真集にするにあたってその全ての写真を見てセレクトし、新たな構成がなされており、本としての独自の世界を作っています。つまり写真集という本の形へのこだわりですね。そうした太田さんの姿勢が石内さんのこの写真集の素晴らしさを生み出したのでしょう。(文:悦)


book data:
title: 石内都写真集『tokyo bay blues 1982-1984』 サイン本
publisher: 蒼穹
author: 石内都
price: 4725(税込)