万田邦敏『再履修 とっても恥ずかしゼミナール』


このところ急に暑くなり、冬から夏へと飛び越した感があります。つい先週までの寒かった春はどこに行ったのか記憶も薄れてきていますが、そんな寒かった春の日に、「港の人」というまるで映画か小説の題名のような出版社の美しい女性編集者がお店に来ました。自分が編集した本を取り扱ってほしいとの事でした。映画の本はただでさえ売れない上に、僕自身が興味が無かった映画作家の本だったので、あまり気乗りしなかったのですが、その編集者の月永さんは、そうした僕の無遠慮な無関心などおかまいなしに、非常な熱意を込めて語り続けるのでした。そのうちに、何やら知らぬ間にこの本に興味が湧いてきて取り扱う事になってしまいました。

万田邦敏『再履修 とっても恥ずかしゼミナール』は「UNLOVED」「接吻」で評価を得ているこの監督の批評集と言ったものですが、単に批評を集めただけでなく、助監督として参加した黒沢清作品「ドレミファ娘の血は騒ぐ」のもととなった「女子大生恥ずかしゼミナール」の製作ルポは、1980年代の日本映画の歴史が見えてくる貴重な記録であり、この本の白眉と言えます。

また、批評からは、その当時の若い映画作家たちが大きな影響を受けた蓮實重彦の直接の門下生であった著者だけに、その影響がどういうものであったかというのが見えてくるのも、この本の面白さであり、それも映画史だと思います。この本自体が活きた映画史となっているあたりが、自身も映画好きの月永さんの熱意ある編集の成果でしょう。元々、この本が作られた経緯というのも、万田さんの昔の原稿を幾つも読んでいた月永さんがそれらをまとめませんかと万田さんに連絡した事から始まったそうです。それまで、一面識も無かったそうですから、その行動力は凄いものです。万田さんも、昔の原稿は恥ずかしいからと最初は渋っていたらしいのですが、月永さんの熱意ある幾度もの訪問に、「恥ずかしさを」受け入れるのもありと思って、本が作られるようになったという事があとがきにも触れられており、僕がこの本を取り扱う気になり、こうして紹介文まで書く気にさせたのと同じ「熱意の作用」が万田さんの前でも繰り広げられていたんだなあと思い、ちょっと面白くなりました。

一緒に取り扱う事にした『すべては映画のために! アルノー・デプレシャン発言集』は、『キングス&クイーン』公開に合わせてパンフ代わりに制作されたものながら、デプレシャンのインタビュー以外の発言、講義録が収録されているのは、他で読めないだけに貴重なものと言えます。 (文:悦)




book data:
title: 再履修 とっても恥ずかしゼミナール 
publisher:港の人
author: 万田邦敏
price: 2835(税込)



title: すべては映画のために! アルノー・デプレシャン発言集 
publisher:港の人
author: アルノー・デプレシャン (著) 福崎裕子ほか(訳)
price: 1575(税込)