陰影のデザイン 都市と建築の照明


照明デザインの第一人者として活躍されている、面出薫さんを中心としたLPA(ライティングプランナーズアソシエイツ)の最新著作兼作品集が先頃刊行された。

ここのところ都市と本の話にこだわりつつ、パリ、ニューヨーク、東京と辿ってきたせいもあって、面出さんのこの本を手に取ってめくっていた時に、ふと思ったのは、いつから都市の夜が闇の世界から光の世界に変わったのだろうかということだった。子どもの頃の記憶を辿ると東京の街も夜は暗く街路灯の無くなる裏路地などは完璧な闇が支配していた。夜は闇が主役であって光は稀な存在だった。それが今や夜は明るく、光が溢れ闇の方が脇役になっている。

そうした逆転した夜の風景の中で、光の印象もかつてとは大いに異なるようになったと思う。室内も昔よりものすごく明るくなっていていつの間にかそれが当たり前になっていた。80年代に初めてパリに行った時に、パリの最先端の高層マンションの一室で、その室内照明の暗さに驚いた時に、東京の室内がいつしかものすごく明るくなっていたことに気付いたものだった。
そうした環境の変化の中で、照明デザインもかつてと同じではいられないだろうなと思った。子どもの頃には驚異の目で見ていた照明デザインの世界も、今では多くは過剰な光の氾濫に、居心地の良さを失ったなかで日常化した光の世界という印象があった。


しかし門外漢の僕らには分からないその世界の中で作り手はどう感じ創造しているのだろうかと言うのを何となく思いながら本を見ていたら、面出さんはPCやLED技術の急速な普及による安易な照明デザインの氾濫による照明デザインの大衆化という最近の現実とそれに対しプロはどうすべきかをきわめて明確に主張している。陰影をデザインするという言葉とその思考の展開するテキストと実践が示される作品集とで、そうした光環境の創造とデザインの方法が示されとても興味深い。本で見るだけでなくその場に実際に赴いてその光の世界を体感してみたいものだと思った。(文:悦)




book data:
title: 陰影のデザイン 都市と建築の照明
publisher: 六耀社
author: 面出薫+LPA
price: 4725(税込)