福本美樹写真集『a paris』



はじめて、パリに行ったのはずいぶん昔になる。それから15年ぐらいの間に7〜8回行った。友人が住んでいたので、いつも10〜20日は滞在していた。そんな訳で、イタリア好きと言いながら実はフランスにばかり行っていた私だけど、最近は全然行っていない。

とはいえ、それだけ行けば、やはり懐かしさと共に、馴染んだ街の感覚みたいなものがある。それは、生まれてから長年暮らしている東京の街に対してあるのと似て非なるものだけど、確実にそうした感覚は感じる。そうした感覚は写真で見てもあまり甦って来ないものなんだけど、この福本美樹さんの写真集を見ていたら何となく感じた。でもここに写っている写真の風景は私が滞在したのとは異なる風景だし、時期も私が行かなくなり始めたころからのもので、合っていない。なぜだろう。でもそれはその写真家の作品と直接関係なく感じるものであり、間接的には関係しているものだと思う。そしてそれが写真を見る愉しみのひとつでもあると思う。

福本美樹さんという方は、関西を拠点に活動されているそうだ。東京にも一時期拠点を置こうとした事もあったらしいが、肌に合わなかったようです。そうした時期に親交を深めていった森山大道さんが、この写真集の編集に参加しているのも、この本の話題でしょう。2003〜2009年にパリにて撮影した作品をまとめた第一作品集ということですが、多様な人種が暮らす今のパリを捉えていながら昔のパリをも感じさせる繊細な写真が並んでいます。それに作者本人のプリントによる独特の色味が魅力です。多分見る人ごとにそれぞれの記憶の街が生まれるのではないでしょうか。それはおそらくこの写真の繊細さと独特の魅力を持つ色味のせいかも知れませんね。(文:悦)




book data:
title: 福本美樹写真集『a paris』
publisher: 蒼穹
author: 福本美樹
price: 3780(税込)