Ahaus No.9 (アーハウス 9号) 特集 風景は成長したか


本や雑誌を見ていて、本筋と関係ないところで気になってそれを辿って行くと意外な発見があるというのがごくたまにあります。そんな時はなんだかとても嬉しい気分になるものです。ついこのあいだ、青森発の建築雑誌Ahausの最新号が約一年ぶりに届きました。年に一二回の刊行ながら、青森にこだわった内容のユニークさとそのクオリティの高さで創刊以来注目し続け、お店が取材を受けた際には必ずといっていい程お勧め商品として提案してきた雑誌なので、まさに待望の刊行なのです。
今回の特集は「風景は成長したか」。メインは宮本常一太宰治が訪れ文章に残した青森の風景を辿るというもの。とにかく写真の量の豊富さに驚きます。

とかく昭和を扱うこうしたテーマの場合、雑誌でも書籍でも大概は集められるビジュアル資料に限界があり、テキスト主体になり、文章を読んで想像してくださいと言うことになるのですが、ここでは風景を語るテキスト一語一語にそれぞれ写真が呼応していると言ってもいい程、ビジュアルが豊富なので、昭和の青森の風景にすんなりと入って行けます。そういう感じで読み進んでいるうちに、その掲載写真の多くに妙に惹かれるものがあることに気付いたのです。

それは何だろうと思って注意して見ていくと、クレジットの「特記無き昭和の写真すべて」が同じ人で、一番写真の量が多いこの写真が妙に引っかかったのです。別段、大きな特徴がある写真ではないのですが、何か引っかかる。いわゆるプロの写真家のけれん味とも、アマチュア写真家に多いコンテスト狙いとも、資料写真の頑ななぎこちなさとも違う何とも言いがたい味わいなのです。風景を捉える構図の収まっていつつも外れたバランス感覚の、そのずれた安定感が妙に目にとまる。なんだか特集そのものとは別のところで気になって仕方なくなってしまった。写真のクレジットは金澤哲郎と言う聞いたことの無い人だった。こうなると、どうしても知りたくなってくる。それで、いつも取扱のことでお世話になっているahausのデザイナーの小枝さんに聞いてみたらなんと編集の人のお父さんだとのこと。編集の金澤さんにも電話でお話しを伺ったところ、お父様はいわゆる写真家としてプロの活動をされてた人ではないが、広報の仕事を長くされてた関係で、写真がしばしば仕事で使われることが多かったそうだ。公私を兼ねて昭和30〜40年代に青森県内を歩き回って撮影した写真が大量に残されており、今回のこの雑誌の企画のテーマにちょうどいいので、その膨大な写真から企画にあったものを選んだんだそうだ。

金澤さんとせっかく話が出来たので、前から気になっていたことも聞いてみました。青森発の雑誌であって、いわゆる取次の全国流通を通す一般の大手雑誌ではない存在でありながら、今回の特集での内藤廣さんもそうだし、毎回毎回企画に合った大物の人が執筆しているのが、不思議だったのです。地方にいてこの内容や編集のクオリティは謎ですよね。よほど、豊富な人脈でもあるのだろうかと...。ところが聞いてみると、会ったこともない人がほとんどだというのです。毎回企画のたびに、ダメもとで手紙で依頼するのだそうです。編集の金澤さん曰く「大物の人は、建築家としての社会的責任を認識しているせいか、地方の専門外の人に対しても、建築について興味や関心をもってもらったり、理解を深めてもらうことの意味を強く感じておられるのか、こころよく力を貸してくれる人がほとんどなんですよ。冷たくされたことが不思議とないのですよ」とのことでした。

日本では地方で制作された雑誌はせいぜいタウン誌どまりで、全国レベルのクオリティにならないのが残念でならないといつも思っていて、それはやはり東京でないと制作上難しいのかなと思っていたのですが、ahausを見てるとなんだか元気づけられます。けっして地方にいても良質の出版物を作るのは可能なものだと思うのです。海外だと、例えばイタリアとかだと、出版社は世界レベルのものが地方都市に結構あります。ブルーノ・ムナーリの本で有名なコライーニはマントヴァだし、アントニオ・タブッキをはじめとする現代文学の良質な作品を刊行しているセッレーリオはパレルモだったりする。日本でも無理じゃないなとahausの話を聞いてて思いました。要は作り手次第ということなんだなと。
それとAhausは特集の他に連載もあるのですが、毎回の特集と連載の内容がリンクしていて、連載自体も特集の一部にもとれるというのも、とても丁寧な作り込みをしているなと感心するところです。
今日は気になった写真のことを辿って行ったら、編集の丁寧さに行き着いて、前からの疑問が解けて、勇気づけられてと、愉しい展開でした。 (文:悦)




book data:
title: Ahaus No.9 (アーハウス 9号) 特集 風景は成長したか 
publisher: アーハウス編集部
author: アーハウス編集部
price: 980(税込)