追悼:大野一雄


朝テレビを見ていたら、「国際的舞踏家大野一雄さんが1日午後4時38分、呼吸不全のため横浜市内の病院で死去した」との訃報が流れてました。びっくりした。つい先日、大野さんの21世紀に入ってからの作品を集めたDVD『大野一雄 花/天空散華 いけばな作家中川幸夫の挑戦』

と、伝説の1977年「ラ・アルヘンチーナ頌」初演のチラシから、1981年「わたしのお母さん」初演、2000年「宇宙の花」までの『大野一雄オリジナルチラシ10枚組』が入荷したばかりだったのです。

それらを見ながら来店した親しいクリエイターの人と大野さんの公演を見に行った時の話をしたりしていたのです。
103歳で普通なら大往生というのでしょうが、なんか大野さんに関しては1000年ぐらいは生きると思っていましたから、驚いてしまったのです。まあとにかくびっくりで、まだ落ち着いて何かを語る事も出来ないのですが、謹んで哀悼の意を表します。 (文:悦)





book data:
title: DVD 大野一雄 花/天空散華 いけばな作家中川幸夫の挑戦
publisher: かんた
author: 大野一雄中川幸夫
price: 10290(税込)




book data:
title: 大野一雄オリジナルチラシ10枚組 
publisher: かんた
author: 大野一雄 
price: 1050(税込)

Newspaper PUNCTUM TIMES:RISAKU SUZUKIA TOHNO 鈴木理策『遠野』

以前このブログでも紹介したPUNCTUMの発行する写真新聞『プンクトゥム・タイムズ』。そのリニューアル第3弾が刊行。今年が柳田國男の『遠野物語』が自費出版されて100年だからというわけでもないのでしょうが、鈴木理策さんの『遠野』です。

柳田國男の『遠野物語』に触発されて、ここ数年来、遠野を訪れている鈴木さんが、何でもない日や祭日に、あの世とこの世が交錯する瞬間やその前後を捉えたかのような写真が並びます。

以前にもちょっと書いたんですが、プンクトゥム・タイムズが写真を新聞という形態で表現するアイデアは面白いと思いました。号を重ねてくるにつれ、それはより思いますね。特に最近、新聞という形態は、実は表現媒体として非常に興味深い特性を備えた面白いものだと店にある商品を見ながら感じていたので、これからプンクトゥム・タイムズはどう展開していくのかとても気になるところです。



そのお店にある新聞という形式を活かした商品についていうと、TDC受賞で一躍注目を浴びた絶影書体の新聞版「絶影新聞」と草間弥生さんのニューヨーク時代に自主制作した「Kusama Presents an Orgy of Nudity, Love, Sex and Beauty」が特にお客さんの反応が高いものとしてあげられます。


新聞というのはほとんどの家庭に置いて日常風景の一部をなしてきたものです。誰しもが子どものころから親しんで特別な意識もなく手にしてしまう、その気軽さ、親しみやすさに目をつけて制作したのが絶影書体の加納さんによる絶影新聞。

加納さんはこの読めない書体(?!)をいかに普及させたらよいか考えたとき思いついたのが、新聞の持つこの特性だったそうです。

また草間弥生さんの新聞はニューヨークという異文化の中でのセンセーショナルなアートの発信という事が、新聞の持つニュースの発信と結びついていると思いますね。

今挙げた二つは、それぞれ美術とデザインという括りになりますね。そして、プンクトゥム・タイムズは写真となるわけで、こうして見ると、新聞というのは面白いと増々感じます。 (文:悦)





book data:
title: Newspaper PUNCTUM TIMES:RISAKU SUZUKIA TOHNO 鈴木理策『遠野』
publisher: PUNCTUM
author: 鈴木理策
price: 525(税込)




book data:
title: 絶影新聞 
publisher: ZETUEI FONTS
author: ZETUEI FONTS (加納佳之) 
price: 100(税込)




book data:
title: Kusama Presents an Orgy of Nudity, Love, Sex and Beauty
publisher: Les Presse Du Reel
author:草間彌生
price: 2100(税込)

万田邦敏『再履修 とっても恥ずかしゼミナール』


このところ急に暑くなり、冬から夏へと飛び越した感があります。つい先週までの寒かった春はどこに行ったのか記憶も薄れてきていますが、そんな寒かった春の日に、「港の人」というまるで映画か小説の題名のような出版社の美しい女性編集者がお店に来ました。自分が編集した本を取り扱ってほしいとの事でした。映画の本はただでさえ売れない上に、僕自身が興味が無かった映画作家の本だったので、あまり気乗りしなかったのですが、その編集者の月永さんは、そうした僕の無遠慮な無関心などおかまいなしに、非常な熱意を込めて語り続けるのでした。そのうちに、何やら知らぬ間にこの本に興味が湧いてきて取り扱う事になってしまいました。

万田邦敏『再履修 とっても恥ずかしゼミナール』は「UNLOVED」「接吻」で評価を得ているこの監督の批評集と言ったものですが、単に批評を集めただけでなく、助監督として参加した黒沢清作品「ドレミファ娘の血は騒ぐ」のもととなった「女子大生恥ずかしゼミナール」の製作ルポは、1980年代の日本映画の歴史が見えてくる貴重な記録であり、この本の白眉と言えます。

また、批評からは、その当時の若い映画作家たちが大きな影響を受けた蓮實重彦の直接の門下生であった著者だけに、その影響がどういうものであったかというのが見えてくるのも、この本の面白さであり、それも映画史だと思います。この本自体が活きた映画史となっているあたりが、自身も映画好きの月永さんの熱意ある編集の成果でしょう。元々、この本が作られた経緯というのも、万田さんの昔の原稿を幾つも読んでいた月永さんがそれらをまとめませんかと万田さんに連絡した事から始まったそうです。それまで、一面識も無かったそうですから、その行動力は凄いものです。万田さんも、昔の原稿は恥ずかしいからと最初は渋っていたらしいのですが、月永さんの熱意ある幾度もの訪問に、「恥ずかしさを」受け入れるのもありと思って、本が作られるようになったという事があとがきにも触れられており、僕がこの本を取り扱う気になり、こうして紹介文まで書く気にさせたのと同じ「熱意の作用」が万田さんの前でも繰り広げられていたんだなあと思い、ちょっと面白くなりました。

一緒に取り扱う事にした『すべては映画のために! アルノー・デプレシャン発言集』は、『キングス&クイーン』公開に合わせてパンフ代わりに制作されたものながら、デプレシャンのインタビュー以外の発言、講義録が収録されているのは、他で読めないだけに貴重なものと言えます。 (文:悦)




book data:
title: 再履修 とっても恥ずかしゼミナール 
publisher:港の人
author: 万田邦敏
price: 2835(税込)



title: すべては映画のために! アルノー・デプレシャン発言集 
publisher:港の人
author: アルノー・デプレシャン (著) 福崎裕子ほか(訳)
price: 1575(税込)

ASPHALT 5号


以前にこのブログで紹介した写真雑誌のASPHALTの最新号である5号が出ました。

藤原敦さんと唐仁原信一郎さんのレギュラー写真家2名に毎号国内外のゲスト写真家を迎えて、それぞれ視座の異なる四人の写真を一冊にまとめてるというスタイルも定着してきた感じがします。深瀬昌久の「鴉」「洋子」、森山大道の「遠野物語」「仲治への旅」、荒木経惟の「平成元年」など昭和の写真史に残る多くの名作写真集を編集してきた長谷川明氏を2号から編集長に迎えてからは、第4弾となり、やれアートだ、やれドキュメンタリーだと言ったいろんな前置きを抜いた、ただひたすら写真を見せるというシンプルな感覚が見えてきた気がします。

今回の収録作品は、藤原敦『鹿児島』木格(ムゲ)『回家』唐仁原信一郎『SHIBUYA』徳本義明『「ぽたらか」の人々』。今号のゲストの木格(ムゲ)氏は中国の四川省成都在住の写真家だそうで、映画でも何度も描かれた長江に三峡ダムの建設による、人々の暮らしの大きな変化を捉えています。全然違う視座のはずの唐仁原信一郎氏の「SHIBUYA」と並べて見るのも一興です。長谷川さんの前書きで、『藤原敦氏の「鹿児島」は氏の個人的な思いと関係が深い。氏の祖父藤原藤門氏は鹿児島で長く教職を務めた。歌人でもあり、昭和11年北原白秋の短歌結社「多磨」に入会している。』とある鹿児島の風景の私的フィルターを通してみた写真があるがままにそこに置かれる事で、また違ってみえるのも面白い所です。徳本義明氏の写真は、解説によれば「ぽたらか」という仏教系の福祉集団による葬儀の様子。1枚のみの掲載ながらインパクトがあります。 (文:悦)





book data:
title: ASPHALT 5号 
publisher: アスファルト出版
author: 藤原敦、木格(ムゲ)、唐仁原信一郎、徳本義明
price: 1500(税込)

Kusama Presents an Orgy of Nudity, Love, Sex and Beauty


お店の棚を眺めていると時々ああこんなのあったなと言う商品が出てきます。

これは、草間彌生が1969年にニューヨークで自ら発行したタブロイドを2001年にリプリントしたもの。

けっこうどきついパフォーマンスぶりが1960年代のアメリカの状況を反映していて、

今の草間さんの原点を見るようで面白いものです。24ページ。英語。 (文:悦)




book data:
title: Kusama Presents an Orgy of Nudity, Love, Sex and Beauty
publisher: Les Presse Du Reel
author:草間彌生
price: 2100(税込)

タイガー立石 TRA(トラ)



赤塚不二雄にも影響を与えたといわれる鬼才漫画家タイガー立石

ナンセンスギャグが満載の全漫画集が祖父江慎アートディレクションで登場しました!

未収録作品やおまけもたっぷりです。

各漫画ごとに紙の素材や質感を変えてあったり、コマがらせん状に動くページがあったり、ただの作品集とはいえないこだわりがつまった本だと感じました。

ぜひ手にとってごらんになってください。 (文:わらし)

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プロジェットがオープンした年でもある1999年に、O美術館で開催された「メタモルフォーゼ・タイガー 立石大河亞と迷宮を歩く」展は、松本弦人さんの激烈なお勧めもあってすぐに見に行ったもので、当時の展覧会でも一番鮮烈な印象が残っています。タイガーさんのことはある程度知ってはいたものの、もともと国内外(特に日本とイタリア)で、美術、デザイン、マンガ、陶芸等々と、多彩すぎる活動をされた人だけに、その全体像をつかむ事は至難の業と言うもの。

その展覧会は初めてと言ってもいい、ほぼ全体像をつかむ展示だった事もあって、より強烈な印象を残し、なかなか売るのは難しいものの誰か本を作らないものかと期待していたのですが、ついに工作舎が無茶をしてくれました(笑)。装丁に祖父江慎という工作舎ならではの組み合わせも、タイガーさんの手の込んだ世界をさらに手の込んだものにしています。 (文:悦)



book data:
title: TRA(トラ)
publisher: 工作舎
author:タイガー立石
price: 5250(税込)

カトリーヌ・スパークやブリジット・バルドーの特集上映パンフ

映画を見る時というのは単にストーリーやスターが気になって見ているだけではなく、映像や音楽やファッションやインテリアなど、様々な側面が興味の呼び水になります。特にリバイバル上映されるものはそうした側面の方が大きいものです。そうしたリバイバルの特集上映の際のパンフにはエディトリアルデザインからしてそうした側面的興味を多いに反映しているものがしばしばあります。個人的にも大好きな女優さんであるカトリーヌ・スパークやブリジット・バルドーの特集上映の際のパンフは、まさにそれです。 

1960年代にイタリアを中心に活躍した人気女優のカトリーヌ・スパークが1962年に主演した2本のバカンス映画「太陽の下の18才」「狂ったバカンス」を1997年にリヴァイバル上映された際のパンフレット『UNA GUIDA FANATICA DI CATHERINE SPAAK E DELLA VACANZA IN ITALIA 1997』は、90年代にパンフにもデザイン性を取り込んで、宣伝のみだけでなく全ての面でリバイバル作品に常に新しい感覚を見せてくれた配給会社日本スカイウェイさんが制作したものだけあって、「太陽の下の18才 」特集、「カトリーヌ・スパーク ガイド」、「イタリア・バカンス ガイド」、「狂ったバカンス」特集 の4章から成る、趣向を凝らした内容のカトリーヌ・スパークへのオマージュ本に仕上がっています。

エンニオ・モリコーネ作曲の主題歌の楽譜や、1960年代のイタリアのリゾートの風景やファッションが多数のビジュアルとともに飾られ映画抜きにも楽しめる1冊です。




ブリジット・バルドーは、今年また1950年代の全盛期の作品が相次いでDVD発売されるとのことで、また注目されそうです。

ここで紹介するのは1991年にユーロスペースで開催された「ブリジット・バルドー映画祭」のカタログ。

表紙や版型、紙の選択などエディトリアルに、B.B.の持つおしゃれ感をイメージしたデザインが施されており、90年代半ば以降の、日本スカイウエイさんなどに代表されるファッショナブルで、デザインに凝った映画パンフの走りと言える作りのものです。

内容もファッション・ジャーナリスト川本恵子さんのエッセイ「BBとモード」やビジュアルをふんだんに使って項目別にバルドーの全てを集めた「ブリジット・バルドーde A a Z」、フィルモグラフィーブリジット・バルドー略歴で構成と、そのセンスの良いつくりは、今もプロジェットで人気です。 (文:悦)





book data:
title: UNA GUIDA FANATICA DI CATHERINE SPAAK E DELLA VACANZA IN ITALIA 1997
publisher: 日本スカイウェイ
author: 日本スカイウェイ
price: 1200 (税込)




book data:
title: ブリジット・バルドー BBに首ったけ
publisher: ユーロスペース
author: 編集:土肥悦子、冨安民子
price: 1000 (税込)