トヨダヒトシさんのこと

暦を見ながら暑い八月になったなあ、プロジェットがオープンしたのも8月だったよなあと思っていたら、偶然にも去年の夏のブログでプロジェットの10周年と共に紹介した、ニューヨーク在住の写真家のトヨダヒトシさんからメールが届いてました。1年ぶりに日本でスライドショウを上映するとのこと。今回は静岡県三島のヴァンジ美術館などで行うそうです。


以前にも書きましたがトヨダさんは、写真家の表現者としての在り方は非常に特異なものです。作品をプリントでは一切発表せず、スライドショウという形式でのみ作品を公開するのです。映像日記という内容のそのスライドショウのスタイルは、音楽を一切流さない無音の中、すべてトヨダさん自身が手動でスライドを送っていくという個性的なもので、映像の流れが生み出す世界がライブ感覚をもって、見るものに染み込んできます。そこは、見ている自分と写真の間に生まれる世界が面白いと感じる不思議な場になっています。



そうしたトヨダさんの一瞬の移ろいゆく時を捉えるスライドショウの世界は上映する場所と呼応する感覚もひとつの重要な要素になっています。これまでも、


東京都現代美術館


横須賀美術館


などの美術館や、プロジェットのような店舗、タカイシイギャラリーなどのギャラリー、あるいは廃校となった小学校の校庭、


多摩川河川敷


Portland Institute of Contemporary Art

など、実に様々な所でスライドショウを開催しています。




今回のヴァンジ美術館は、イタリアの有名な彫刻家ジュリアーノ・ヴァンジの作品を集めた美術館で、三島駅からバスで丘を上って行った丘の上の美術館だそうです。
上映は室内のヴァンジの作品が常設展示してある天井の高い部屋で、客席分ヴァンジの彫刻作品の展示をずらして、スクリーンを天井から下ろしてきて行うそうで、ヴァンジの個性的な彫刻に囲まれた中での上映はいったいどんな世界が広がっていくのか楽しみです。





去年のブログ同様今回のトヨダさんのスライドショウは、プロジェットとは直接関係のないイベントですが、こうしたクリエイターさんとのおつきあいからうまれる不定形のものもこのプロジェットというお店ということで紹介しました。...去年と同じ言い訳ですね(笑)。そして今年もトヨダさんと美味しいビールを飲みたいものです。(笑×笑) (文:悦)




以下今年の上映のリリース資料です。



”2年間かけてふたつの作品をつくった。
10年前のような、気負わないものをつくりたかった。
親しい友人に宛てた、心をこめた近況報告の手紙のようなもの。
ひとつをつくりながら、別の、どうしてもまとめておきたい時期が現れた。 
闇を内包する光。光を内包する闇。 
2年間、ふたつの時期と“今”の間をずっと往き来していた。
仏教で使われる暦の中から「白い月」「黒い月」と名づけてみた。
ひとつはある年のニューヨークでの日々。もうひとつは別の年の日本での時間。
それぞれまったく別の作品だが、遠く離れていながら共振しあう2作品になった。” 
(トヨダヒトシ)


ヴァンジ彫刻庭園美術館の上映スケジュール

2010年8月13日(金)  "NAZUNA" 上映+アーティスト・トーク 17:00開場 17:30開演・予定(ゲスト:北折智子氏)
2010年8月15日(日) “黒い月” 17:00開場 17:30開演・予定

http://www.clematis-no-oka.co.jp/news/details.php?id=98&cd=i


タカ・イシイギャラリーの上映スケジュール

2010年8月27日(金)”白い月” 18:30開場 19:00開演(〜20:00終演予定)
2010年8月28日(土)“黒い月” 18:30開場 19:00開演(〜20:30終演予定)


http://www.takaishiigallery.com/jp/exhibitions/2010/toyoda/



"白い月"  (2010/60mins./35mm film/silent)

ある4月の朝/この町に住みはじめて何年になるのだろう/台所の窓/エリー湖/寄せては返すもの/波のない日は底に沈んでいるものが見えた/友人との食卓/蚊柱/きのう、イラクの町で62人が亡くなった/なんでもない会話/いつもそこにいた/無差別の死/北の寺へ/寄せては返すもの/静かな光/冬へ
この年は日本へは帰らなかった。ニューヨークでの日々。長編映像日記第6作。


"黒い月" (2010/80mins./35mm film/silent)

初夏の日本/孤独感、疎外感による事件が矢継ぎばやに起った時期だった/7月の川/いつもの道/争いに勝った者の意見が正しいのか/鎌倉/「私にはなにもない」、と/花/午後/丘の上は思ったよりも風が強かった/いくつもの野/どんな風景も完結はせず、ただ光があり、時間があった。闇があった。/暮らし/夜 /約束/秋
ある年の初夏から冬へと向かう、日本での日々。長編映像日記第7作。


"NAZUNA" (2004-2005/90mins./35mm film/silent)
9.11.01/うろたえたNY/11年振りの秋の東京を訪れた/日本のアーミッシュの村へ/アフガニスタンへの空爆は続く/ただ、/やがて来た春/長くなる滞在/写真に撮ったこと、撮れなかったこと、撮らなかったこと/白く小さな/東京/秋/雨/見続けること
ある夏のブルックリンの裏庭から始まる、1年数ヶ月の日々を綴った長編スライドショー。


上記の2ヶ所の他に9月に、

横浜の blanclass(元Bゼミ)にて "白い月" 、

麻布十番gm ten (graffの)にて "白い月"と"黒い月"の上映があります。

もう少ししたら日程がきちんと決まります。

詳細はトヨダさんのホームページ
http://www.hitoshitoyoda.com/
をご覧下さい。

陰影のデザイン 都市と建築の照明


照明デザインの第一人者として活躍されている、面出薫さんを中心としたLPA(ライティングプランナーズアソシエイツ)の最新著作兼作品集が先頃刊行された。

ここのところ都市と本の話にこだわりつつ、パリ、ニューヨーク、東京と辿ってきたせいもあって、面出さんのこの本を手に取ってめくっていた時に、ふと思ったのは、いつから都市の夜が闇の世界から光の世界に変わったのだろうかということだった。子どもの頃の記憶を辿ると東京の街も夜は暗く街路灯の無くなる裏路地などは完璧な闇が支配していた。夜は闇が主役であって光は稀な存在だった。それが今や夜は明るく、光が溢れ闇の方が脇役になっている。

そうした逆転した夜の風景の中で、光の印象もかつてとは大いに異なるようになったと思う。室内も昔よりものすごく明るくなっていていつの間にかそれが当たり前になっていた。80年代に初めてパリに行った時に、パリの最先端の高層マンションの一室で、その室内照明の暗さに驚いた時に、東京の室内がいつしかものすごく明るくなっていたことに気付いたものだった。
そうした環境の変化の中で、照明デザインもかつてと同じではいられないだろうなと思った。子どもの頃には驚異の目で見ていた照明デザインの世界も、今では多くは過剰な光の氾濫に、居心地の良さを失ったなかで日常化した光の世界という印象があった。


しかし門外漢の僕らには分からないその世界の中で作り手はどう感じ創造しているのだろうかと言うのを何となく思いながら本を見ていたら、面出さんはPCやLED技術の急速な普及による安易な照明デザインの氾濫による照明デザインの大衆化という最近の現実とそれに対しプロはどうすべきかをきわめて明確に主張している。陰影をデザインするという言葉とその思考の展開するテキストと実践が示される作品集とで、そうした光環境の創造とデザインの方法が示されとても興味深い。本で見るだけでなくその場に実際に赴いてその光の世界を体感してみたいものだと思った。(文:悦)




book data:
title: 陰影のデザイン 都市と建築の照明
publisher: 六耀社
author: 面出薫+LPA
price: 4725(税込)

PETER SUTHERLAND『TOKYO NATURAL FANTASY』とROCKET BOOKS



ここのところブログでの本紹介が都市の話に偏っているなと思いつつパリ、ニューヨークときたらやはり東京だよなと思う。とはいっても東京にまつわる本なぞ嫌になるほど多い。そんなことを思って棚の整理をしていたとき、目の前に最近取扱が始まったROCKET BOOKSの本が並んでいた。


ROCKET BOOKSとはアートディレクター藤本やすしさんが主宰するデザイン集団CAP(『VOGUE NIPPON』や『BRUTUS』など雑誌のアートディレクションで誰もが知っている集団ですね)と、ファッションやカルチャーを中心に広告制作や雑誌&書籍の編集制作を手掛けるクリエイティブ集団RCKT/Rocket Company*が、2007年に立ち上げた出版レーベルだそうだ。そのROCKET BOOKSの最新刊がニューヨークを拠点に活動する映画監督/フォトグラファーのPeter Sutherland (ピーター・サザーランド)の新しい写真集『TOKYO NATURAL FANTASY』。


2009年冬の来日時に見て感じた<東京>を、自身の感性で編集したもので、この写真家らしい日常の一コマへの関心の強さが異邦人的視点と合わさって日本人の写真家が見せるのとは別の、それでいて親密度のあるまたひとつの東京への眼差しが見れます。


今回この写真集と同時にROCKET BOOKSの既刊も3冊入荷したのですが、僕の勝手な思い込みもありますが、なぜかどれも東京にまつわる本でした。『CAP すべてのCAPスタッフへ、そしてキャップをかぶるボクのこと。』はCAPを主宰する藤本やすしさんがCAPで働く全スタッフにあてて書いた自分史の体裁を取りつつ、グラフィックデザインに関わるすべての新人デザイナーへのメッセージとなったもので、1970年代の『太陽』編集部から始まり、肉屋の2階の小さな事務所での日々、雑誌丸ごとのデザイン提案、青山へのオフィス移転、ラフォーレ原宿のプレゼン参加、ギャラリーROCKETのオープン、NYでのファッション撮影と話は続き、それらは、いずれも東京での仕事のある時代の風景としてとても面白く見ることが出来ます。そして『TOKYO EDIT #1』は、そのものずばり東京の本ですね。全500ページの大ボリュームで東京の現在が感じられる新しいカタチのガイドブックというふれこみで、総勢150名のクリエイターたちによる紹介です。


もう一冊は『ROCKET(ALL ABOUT ROCKET 1996-2007)』で、1996年秋、表参道の同潤会青山アパートの一室でスタートしたgallery ROCKETが、移転の合間のクローズ期間(2005〜2007年)に発行していたフリーペーパーをまとめた一冊。


原宿という街のアートスペースという点と時代性とが東京の街が持つ凄まじいばかりの速度と一方でずっと変わらずに息づいているものとが垣間見えてくるのもある時代に深くリンクしたフリーペーパーというものの面白さでしょう。(文:悦)




book data:
title: PETER SUTHERLAND『TOKYO NATURAL FANTASY』
publisher: ROCKET BOOKS
author: ピーター・サザーランド(PETER SUTHERLAND)
price: 4095(税込)



title: CAP すべてのCAPスタッフへ、そしてキャップをかぶるボクのこと。
publisher: ROCKET BOOKS
author: 藤本やすし
price: 630(税込)



title: TOKYO EDIT #1
publisher: ROCKET BOOKS
author: ROCKET BOOKS
price: 2109(税込)



title: ROCKET(ALL ABOUT ROCKET 1996-2007)
publisher: ROCKET BOOKS
author: ROCKET BOOKS
price: 2835(税込)

野上眞宏写真集『NEW YORK HOLY CITY サイン本』

ニューヨークへは一度しか行ったことがない。プロジェットを始める時に、ニューヨークの書店を見たくて行ったきりだ。ヨーロッパの書店はフランスやイタリアを中心に、大型店から専門店まで、それなりに見て回ってたけど、ニューヨークは聞いた話だけだった。結局、さほど参考にはならなかったけど、街としては行って良かった。想像と違って、イメージを一新できたので。

特に、ブルックリンの街。旅行前からどうしてもブルックリンは行ってみたかった。父親が子どもの頃過ごした街だったので、聞いて思い描いてたイメージを実際に見ることで確かめたかったからだ。ずいぶん道に迷った末に父の住んでた家も見付けることが出来、ハドソンリバーの向こうに見える自由の女神の姿に、父の語ってた街の姿がしっかりと認識できた。そしてこの年の暮れに父は亡くなったので、今となっては本当にこのとき行っておいて良かった。

ニューヨークの街を撮った写真集は世界中でものすごい数刊行されている。しかしなぜかブルックリンの街を撮ったものは少ない。おそらく普遍的なニューヨークの街のイメージにそぐわないからだろう。普遍的な街の姿というのは意外とそこにあってそこにないようなものという気がする。どこか観光客向けのもののような。街はやはり実際にそこに滞在し、自分で歩き回ったり佇んだりすることで初めて、実際の街の姿が自分の中に見えてくる。そうした内面と記憶のせめぎ合いから出てきたものがどう映像に定着して行くのかを見るのも写真を見る愉しみのひとつだと思う。

長年ニューヨークに暮らす野上眞宏さんが1997年に刊行した写真集『NEW YORK HOLY CITY』は、ブルックリンやブロンクスなど、マンハッタンに代表される定着した普遍的なイメージではないニューヨークの街を忠実に捉えることで、かつてアジェがパリの姿を人々の内面に深く刻み付けたように、ニューヨークの街の持つ多層的な姿を見るものの内側に深く刻み付けてくれる。
そういえば、この旅行のとき、野上さんにメトロの入口の前で撮ってもらった写真がプロジェットの創業写真だった。それもニューヨークのいい思い出だな。やはりニューヨークに行って良かった。(文:悦)





book data:
title: NEW YORK HOLY CITY サイン本
publisher: 美術出版社
author: 野上眞宏
price: 4935(税込)

福本美樹写真集『a paris』



はじめて、パリに行ったのはずいぶん昔になる。それから15年ぐらいの間に7〜8回行った。友人が住んでいたので、いつも10〜20日は滞在していた。そんな訳で、イタリア好きと言いながら実はフランスにばかり行っていた私だけど、最近は全然行っていない。

とはいえ、それだけ行けば、やはり懐かしさと共に、馴染んだ街の感覚みたいなものがある。それは、生まれてから長年暮らしている東京の街に対してあるのと似て非なるものだけど、確実にそうした感覚は感じる。そうした感覚は写真で見てもあまり甦って来ないものなんだけど、この福本美樹さんの写真集を見ていたら何となく感じた。でもここに写っている写真の風景は私が滞在したのとは異なる風景だし、時期も私が行かなくなり始めたころからのもので、合っていない。なぜだろう。でもそれはその写真家の作品と直接関係なく感じるものであり、間接的には関係しているものだと思う。そしてそれが写真を見る愉しみのひとつでもあると思う。

福本美樹さんという方は、関西を拠点に活動されているそうだ。東京にも一時期拠点を置こうとした事もあったらしいが、肌に合わなかったようです。そうした時期に親交を深めていった森山大道さんが、この写真集の編集に参加しているのも、この本の話題でしょう。2003〜2009年にパリにて撮影した作品をまとめた第一作品集ということですが、多様な人種が暮らす今のパリを捉えていながら昔のパリをも感じさせる繊細な写真が並んでいます。それに作者本人のプリントによる独特の色味が魅力です。多分見る人ごとにそれぞれの記憶の街が生まれるのではないでしょうか。それはおそらくこの写真の繊細さと独特の魅力を持つ色味のせいかも知れませんね。(文:悦)




book data:
title: 福本美樹写真集『a paris』
publisher: 蒼穹
author: 福本美樹
price: 3780(税込)

石内都写真集『tokyo bay blues 1982-1984』 サイン本

石内都さんの最新の写真集が入荷した。

この『tokyo bay blues 1982-1984』は戦後の写真史に大きな影響と足跡を残した雑誌『カメラ毎日』が休刊する直前に連載された「Tokyo Bay City」を再構成したものだそうだ。私は残念ながら当時連載を見ていないのですが、その連載では、横須賀を出発点に回ごとに東京湾を廻っていく内容で、写真とテキストが量的にも拮抗して連動した内容のものだったそうです。対してこの写真集では、テキストの無い写真のみで並びもバラバラで、写真集独自の世界を作っているので、全くの新しいものになっています。

聞いた話によれば、このときの連載が石内さんの最初のカラーという事で、フィルムにして200数十本という膨大な量が撮影され、今回の写真集の編集作業もその連載用に撮影されたポジ8000枚という膨大な量からセレクトしていったところ、採用された写真の大半は未発表であり、連載とコマ違いも多く、結果テキストと連動できなくなり、写真集独自のかたちが生まれていったそうだ。

しかし、ここにある海の風景の不思議な美しさは30年近く前の風景の写真とは思えない新鮮さがあり、この本の例え様の無い魅力を作り出している。それにしてもよくもこうした名作が本になっていなかったものだと思うが、そこは出版した蒼穹舎ならではでしょう。蒼穹舎の太田さんは、石内さんの作品を数多く手掛けているだけでなく、タレントものではない、写真家の写真集をおそらく世界で最も写真集を編集している名編集者です。出版された写真集は100冊を越えています!

その大田さんの幅広い仕事のなかで、本になっていない埋もれた名作をまとめるというものがあります。太田さんの最初に手掛けた深瀬昌久さんの「鴉」もそうですし、近年では森山大道のギャラリーでの展示のみの未発表写真をまとめた「宅野」や『カメラ毎日』の連載からの「hysteric Sixteen 植田正治 小さい伝記」、個展で一部発表されただけの長野重一写真集『香港追憶 HONGKONG REMINISCENCE 1958』などいずれも強烈な印象を残しています。どの本の場合も、発表当時のそのままではなく、写真集にするにあたってその全ての写真を見てセレクトし、新たな構成がなされており、本としての独自の世界を作っています。つまり写真集という本の形へのこだわりですね。そうした太田さんの姿勢が石内さんのこの写真集の素晴らしさを生み出したのでしょう。(文:悦)


book data:
title: 石内都写真集『tokyo bay blues 1982-1984』 サイン本
publisher: 蒼穹
author: 石内都
price: 4725(税込)

慶應義塾大学アート・センター・ブックレット 18「文化観光 『観光』のリマスタリング」


慶應義塾大学アート・センターが発行するブックレットは編集委員によって、毎回テーマを決め、未発表のオリジナルの論文が掲載されているもので、アートを狭く論ずるのではなく、経済やメディアなど幅広い側面からアプローチしたテキストが集められており、私なぞは毎回楽しましてもらっている。今回の18号のテーマは「文化観光 『観光』のリマスタリング」。

昔勤めていた書店では、長らく旅行書の担当をしてたこともあり、このテーマは興味あるなと手にしたら、やはりこのブックレットらしく、文化行政、メディア、歴史、業者と言った多角的なテキストが集められていて実に面白い。

中でも個人的に嬉しかったのは「英国人のグランドツアー その起源と歴史的発展」。グランドツアーという言葉は、今から20年以上前にジェーム・アイボリーの映画「眺めのいい部屋」を見た時に、初めて意識した。この映画を見る事になったのも、舞台がフィレンツェだったというのが大きい。昔からイタリア好きで、お店の名前にまでイタリア語にした程なので、映画を見るにもイタリアびいきなのは言うまでもないこと。映画では、昔の裕福なイギリス人の若者たちの優雅なイタリア観光が描かれていたが、話の内容より、彼らのイタリア観光の仕方に興味が一番だった記憶がある。

そうしたイギリス人のありさまをグランドツアーという言葉で言い表すのをこのとき知った。そのとき、興味はわいたものの、そのうち調べたいなと思いつつ、グランドツアーそのものの歴史までは調べなかった。その後も、ゴシック建築の本の紹介記事を書かなければならなかった時や、伝説の多い画家サルバトール・ローザを主人公にした冒険映画をイタリア映画祭で見た時などにグランドツアーのことを思い出し、調べようと思いつつ忙しさにかまけて忘れてしまっていたので、今回このブックレットで、グランドツアーの歴史がしっかり書かれていたのは、長年の関心がかなり満たされ嬉しく思いました(苦笑)。 (文:悦)





book data:
title: 慶應義塾大学アート・センター・ブックレット 18「文化観光 『観光』のリマスタリング」
publisher: 慶應義塾大学アート・センター
author:慶應義塾大学アート・センター
price: 700(税込)